有機化合物の立体を考えることは、この分野の面白いところである反面、理解するのが難しく有機化学を嫌いになるところでもあるかと思います。
とはいっても期末試験や大学院入試に頻出するこの単元。
今回はそんな重要な単元である有機化合物の立体の中でも、特に理解するのが難しいメソ化合物について東大の大学院入試問題を解きながら説明していこうと思います。
目次
- メソ化合物とは?
- 東大大学院入試問題を解いてみる!
メソ化合物とは?
まずはメソ化合物の説明から。
メソ化合物とは不斉炭素を持っているが、アキラルな化合物のことを指します。
これだけでは何のことかさっぱりだと思うので、以下にその例を示します。

これは酒石酸と呼ばれる分子です。

酒石酸はこのように2つの不斉炭素を持ちます。すなわち酒石酸は4つの異なる立体を持つわけです。
以下にその4つを示します。

さて本題に戻りましょう。
この中にはメソ化合物が含まれています。
メソ化合物とは不斉炭素を持っているが、アキラルである化合物を指すのでした。
つまり一つ一つキラルか、アキラルかを確認すればいいわけです。
まずは1から。

1の後ろに鏡をセットして鏡に映る1を書いてみましょう。
1の紙面奥側にあるHとOHは鏡には手前側にうつりますよね。
同様に1の紙面手前側にあるOHとHは鏡には奥側にうつります。
つづいて1がキラルなのか、アキラルなのかを確認します。
確認方法は、1と鏡に映った1が異なるものであればキラル。同一であればアキラルです。
鏡に映る1はどう変形しても1になりません。つまり1はキラルであるということになります。
ちなみに鏡に映る1は2と同じ化合物になっていることに気づくでしょうか。
すなわち、2もキラルです。なぜなら2を鏡に映すと1になり、これら2つは同一ではないからです。
一応2を鏡に映した図も示しておきましょう。

続いて3がキラルか、アキラルかを調べていきます。

鏡にうつす操作には慣れてきたでしょうか。
続いて3と鏡に映る3が異なるものか、同一のものか確認します。

鏡に映る3を180°回転させたら3に戻りました。
つまり3はアキラルであり、これはメソ化合物であるということが分かりました。
ちなみに鏡に映る3は4と同じ化合物になっています。
つまり4は3と同一の立体を持つ化合物であるということが分かりました。

まとめますと、1と2はキラルであるためメソ化合物ではなく、3と4は同一化合物でありアキラルであるためメソ化合物ということになります。
東大大学院入試問題を解いてみる!
最後に H23の東京大学理学研究科大学院入試問題を解いて理解を深めていきます。
次の5種類のアルケンについて、それぞれ臭素の付加反応を行う。メソ体の生成物を与える場合をすべて選び、その生成物の構造を立体配置が分かるように書け。
H23yukikagaku-kiso.pdf (u-tokyo.ac.jp)

H23の東京大学大学院理学研究科の基礎有機化学の問題です。
まずは問題にあるようにアルケンの臭素化を行います。
一番左の化合物から順に行きましょう。
1つ目

こんな感じで臭素化が進行しますね。生成物には不斉炭素が一つしか含まれません。すなわちこの化合物はキラルです。というわけでメソ体ではないということになります。
2つ目

続いて2つ目です。
臭素化を行ったら、生成物がメソ体かどうか確認します。この際に2つのブロモ基両方を紙面上にくるように立体配座を書き換えると後の操作が分かりやすくなります。

どうでしょうか。鏡に映った化合物は180°回転させても元の化合物と同一にはなりません。すなわちこの化合物はキラルであることからメソ体ではありません。

ちなみに下のように臭化物イオンの求核位置が異なる場合も、生成物はキラルとなるため省略します。(実質のエナンチオマー)
3つ目

臭素化を行ったら、生成物がメソ体かどうか確認します。(青矢印の操作は後のメソ体かどうかを判断する際に分かりやすいように行っている)

どうでしょうか。鏡に映る化合物を180度回転させると元の化合物と同一になりませんか。
つまりこの化合物はアキラルであり、メソ化合物ということになります。
この場合も同様に臭化物イオンの求核位置が異なる場合が考えられますが、同一化合物が得られるため省略します。
4つ目

4つ目は1つ目同様、不斉炭素が1つしかないため必ずキラルになります。そのためメソ化合物ではありません。
5つ目

5つ目もまずはブロモ化。

続いて生成物がキラル化、アキラル化をチェック。
鏡に映った化合物は元の化合物とは異なる立体を示します。そのためこの化合物はキラルであり、メソ化合物ではありません。
以上5つをまとめると、メソ体は3つ目の化合物のみということになりました。
まとめ
メソ化合物は不斉炭素をもちながらアキラルな化合物を指します。そのため化合物がキラルなのか、アキラルなのかを正確に判断することができれば問題なくメソ化合物を判断することができます。
初めはキラルかアキラルかの判断に時間がかかるかと思いますが、一つ一つの操作を丁寧に行っていくことで徐々に慣れていくかと思います。