有機化学には数多くの人名反応が存在します。そのためなかなか反応機構を覚えられないと苦戦している方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は大学院入試で頻出かつ、なかなか反応機構を覚えにくい人名反応を、共通する電子の流れに着目してまとめました。
目次
- バイヤービリガー酸化、クルチウス転移の簡単な覚え方とは?
- ヴォルフ転移、ベックマン転移
バイヤービリガー酸化、クルチウス転移の簡単な覚え方とは?
まずこちらの2つの反応についてみていきます。


どちらも大学院入試に頻出する人名反応です。
具体的な反応メカニズムを以下に示します。
- バイヤービリガー酸化

- クルチウス転移

初見で簡単に覚えるのはなかなか難しい反応だと思います。
そこで、まずはこれらの反応の共通点を抑えていきましょう。
反応のポイントは以下に示した2つの基質がもつある2つの性質です。

どこに共通点があると思いますか。
答えは


どちらの基質も求核性をもつ部位と、脱離する部位の2つを有している点です。
メタノールやエタノールといったアルコールが持つ-OHは求核性をもつことからもわかるように、上の基質においてもO原子は求核性を持っています。さらに、青で囲った部分は安定なカルボン酸イオンとして脱離するため、脱離基として働きます。
また下の基質においても、両端の窒素原子は負電荷をもつため求核性を有しており、さらにN2は安定な気体分子であるため、脱離基として働きます。
以上の理由から、これら2つの基質は求核部位と脱離部位の2つを有していることが分かります。
本反応ではこれら2つの性質を利用して反応が進行していきます。
というわけで、順をおってみていきましょう。
Step 1. 求核

どちらの反応も求電子性を持つカルボニル基を有する基質との反応であるため、まずは先ほど示した2つの基質の求核部位がカルボニル炭素へ求核攻撃することが予想できます。
どうでしょうか!
至って単純明快な反応に見えてきませんか?(まだ終わってませんが(笑))
Step 2. 脱離

続いて脱離基の出番です。
巻き矢印が複雑で覚えられないと思われるかもしれませんが、反応生成物と脱離するためにはどのような電子の流れをとるのかの2つを考えましょう。
上のバイヤービリガー酸化の場合、出来上がるのはエステルであるため、R置換基が脱離基を押し出す形で転移します。
下のクルチウス転移も同様に、中間体のイソシアネートを形成するためにここではメチル基が脱離基である窒素分子を押し出す形で転移します。
ただクルチウス転移の場合、この後にも反応が続くため、中間体としてイソシアネートができると覚えるのが難しいかと思います。
そのため、ここではバイヤービリガー酸化とクルチウス転移を同時に覚えることをお勧めしています。
ヴォルフ転移、ベックマン転移
ヴォルフ転移
その他の反応として機構が少し異なるが、似ている機構をとる反応を見ていこうと思います。


上は光を用いたクルチウス転移、下はヴォルフ転移と呼ばれる反応です。
あれ、またクルチウス転移でてきたと思われるかもしれませんが、今回は光を用いたクルチウス転移です。
よく見ると脱離基であるN2がR置換基によって押し出されずに脱離しています。これは光反応に特有の反応で、N2が脱離後、窒素の荷電子が6つしかないナイトレンといわれる中間体が生成します。
ナイトレンは通常の窒素原子よりも荷電子が2つ少ないため、求電子性を持ちます。そのためR置換基がN2の脱離による駆動力を必要とせず転移します。
同様にヴォルフ転移においても、光を用いることで脱離基である窒素が脱離し、炭素上の荷電子が6つしかないカルベンが生成します。
カルベンはナイトレン同様に求電子性を持つため、クルチウス転移同様にR置換基が転移し、ケテンが生成します。
ベックマン転移
最後にこれまで出てきた反応の応用としてbeckman転移を見ていきます。

反応機構は以下の通りです。

クルチウス転移や、バイヤービリガー酸化の反応機構をマスターしていればところどころに同様の機構が見られることが分かるかと思います。
ただ一点異なる点は、反応剤に脱離基がない点です。


ベックマン転移で用いる反応剤であるヒドロキシルアミンは、求核性は持つものの、脱離基は持ちません。
そのためオキシムを形成した後、酸を用いてヒドロキシ基を脱離基へと変換する必要があります。
そうすることで、バイヤービリガー酸化、クルチウス転移と同様に、求核部位と脱離部位を併せ持つ特異的な反応機構が描けるようになるわけです。
まとめ
大学院入試に頻出するバイヤービリガー酸化、クルチウス転移、ヴォルフ転移、ベックマン転移について解説しました。
人名反応は数多く存在するので、今回紹介したように反応の共通点をまとめて体系的に学ぶと、効率よく覚えることができるためおすすめです。
反応機構を覚えたら以下の演習書で問題に取り組みましょう!
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