令和2年 東北大学 工学研究科 化学・バイオ系 有機合成化学問題解答

東北大学大学院

逆合成解析についての問題が東北大学の大学院入試で出題されていたため、興味本位で解いてみました。パート2。

以下に過去問のリンクを記載するので、興味がある方はぜひ解いてみてください。

r02_org_synth.pdf (tohoku.ac.jp)

目次

  • 令和2年 東北大学の逆合成問題1つ目は、3-ブロモトルエンの逆合成
  • 2級アミンの合成法
  • 向山アルドール反応を用いた逆合成
  • 官能基の配向性を活用する逆合成

令和2年 東北大学の逆合成問題1つ目は、3-ブロモトルエンの逆合成

まずはサムネイル画像で示したこちらの問題から解いていきます。

トルエンを出発物質としてメタ位にブロモ基を導入するといった問題。

トルエンはメチル基によってオルト、パラ配向性を示すため、このままではブロモ基を所望の位置に導入することができません。

そのため、何か一工夫必要になります。

今回は使用できる試薬から、トルエンをニトロ化できそうであるため、一旦検討してみることにします。

ここでパラ位にニトロ基が置換された基質を考えてみることにします。ここに臭素付加させようにもメチル基はオルト配向性かつニトロ基はメタ配向性を示すため、以下の位置に選択的に臭素が付加してしまいます。

ここで一工夫加えます。

ニトロ基をアミノ基に還元するとどうでしょうか。アミノ基はオルト、パラ配向性を示すため、以下の位置に臭素がつけれそうではないですか。

おいおい、メチル基のオルト、パラ配向性はどう考えるんだと思われるかと思います。

メチル基がオルトパラ配向性を示すのは以下のように、メチル基の超共役による安定化が生じるためでした。

一方で、アミノ基がオルトパラ配向性を示すのは、窒素上のローンペアが芳香環内に流れ込んだ共鳴構造による安定化が生じるためです。

この場合、共鳴構造による安定化の寄与が大きいため、アミノ基のオルトパラ配向性が優先します。

長くなりましたが、ようやく所望の位置に臭素を導入することができました。

最後に問題の解答を示します。

ジアゾ基はジ亜リン酸によって除去可能です。

2級アミンの合成法

問題は2級アミンであるピロリジンの合成法を問う問題でした。

出発物として以下の2つが考えられますが、上の基質はアミドを形成し環化しそうにないため、下の基質を用いて分子内でイミンを形成させることにします。

イミンが作れたらあとは還元するだけです。

ちなみに何気なく示したこの反応ですが、実はとても優れた反応なんです。

窒素にアルキル置換基が2つついた2級アミンは以下のような汎用的な方法では合成することができません。なぜなら2級アミンは1級アミンよりもN上の電子密度が上がっており、2級アミン生成後すぐに3級アミン、4級アンモニウム塩へと変換してしまうためです

以上の理由から、2級アミンを合成する方法として、イミンをNaBH3CNで還元する方法がもっぱら利用されます。

もう一つ合わせて、1級アミンの合成法としてガブリエル反応も覚えておくといいと思います。

ガブリエルアミン合成 Gabriel Amine Synthesis | Chem-Station (ケムステ)

最後に問題の解答を示します。

基礎的な反応を組み合わせた問題であるため、確実に得点したいところです。

向山アルドール反応を用いた逆合成

タイトルにも示したように、本問題は向山アルドール反応を利用する問題です。選択肢にTiCl4と(CH3)3SiClがあるので、見た瞬間にこれは向山アルドール反応だ!と察することができます。

向山アルドール反応について詳細を説明する前に解答を示していきます。

まずこんな形に逆合成解析できますね。

逆合成した2つの基質を以下のように向山アルドール反応させれば目的物が得られそうです。

いきなり赤字で示した反応剤を用いていて何をしているかわからなくなりそうなので、順を追って説明していきます。

まずアセトフェノン(上)とTiCl4を混ぜたのはカルボニル基を活性化させるためです。Tiにカルボニル基の酸素原子が配位することでカルボニル基の求電子性が高まります。

そこにアセトン(下)から調整したシリルエノールエーテルを求核剤として反応させることで目的物が得られます。

このようにカルボニル化合物を求核剤と求電子剤へ明確に区分させる方法をとるのには以下のような理由があります。

今回のように出発物のどちらにもカルボニル基が含まれ、かつα水素を有する場合、通常のアルドール反応では以下のような副反応が起こります。

さらに、同じものが反応してしまうことも考えられます。

このように出発物のどちらにもカルボニル基が含まれ、かつα水素を有するものを利用する際には、所望の目的物を得るために、向山アルドール反応が利用されます。

向山アルドール反応については、ケムステに詳細が掲載されています。

向山アルドール反応 Mukaiyama Aldol Reaction | Chem-Station (ケムステ)

官能基の配向性を活用する逆合成

最後の問題はヨウ素と臭素がメタ位に置換したベンゼンの合成です。

通常、ハロゲンはオルト、パラ配向性を示すため、ヨウ素を付けた後に臭素をつけるというような方法では上記の化合物を合成することができません。

そこで、ここではヨウ素の導入法に着目します。

ヨウ素の導入法は以下にような流れです。

ニトロ基を導入後、ニトロ基を還元することでアミノ基へと変換し、ジアゾ化を経て、ザンドマイヤー反応によってヨウ素を導入します。

お気づきでしょうか。

ニトロ基を導入した段階で、ニトロ基のメタ配向性を活かして、ブロモ基を所望の位置に導入できることに。

つまり解答としては以下のような流れになります。

まとめ

毎年、毎年、配向性を利用して解く問題が出題されています。コツをつかんで確実に得点したいところです。

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