令和3年 東北大学 工学研究科 化学・バイオ系 有機合成化学問題解答

東北大学大学院

逆合成解析についての問題が東北大学の大学院入試で出題されていたため、興味本位で解いてみました。

以下に過去問のリンクを記載するので、興味がある方はぜひ解いてみてください。

r03_org_synth.pdf (tohoku.ac.jp)

目次

  • アゾ化合物の逆合成
  • クロロ基とヨード基が混在する化合物の逆合成
  • カルボン酸の逆合成
  • カルボニル化合物の選択的な逆合成

令和3年 東北大学の逆合成問題は アゾ化合物の逆合成

この年の逆合成問題は全部で4問ありました。まずはサムネにもなっている問題から見ていきます。

逆合成解析で重要なのはどこの結合を切断できるのかを考えることです。

この化合物を見ると、特徴的な官能基としてアゾ基があり、使用する試薬にアミノ基をアゾ基に変換できるNaNO2とH2SO4があるため、下に示す2つの基質をジアゾカップリングさせることで目的物が得られることが予想できます。

ここで重要なのは、ジアゾカップリングはジアゾニウム塩と電子豊富な芳香環によって起こるため、以下に示す組み合わせではカップリングしないということです。2つのクロロ基による立体的な影響も相まって、より反応性が低下することが予想されます。

続いてカップリングさせる2つの基質の合成法を考えます。まずは簡単に合成できそうなアニリンからいきましょう。

アニリンはベンゼンをニトロ化し、ニトロ基を還元することで得られます。

ベンゼンに直接アミノ基を導入したいよ。と思うかもしれませんが、与えられた試薬ではできません。

また、アミノ基を導入する場合に用いる芳香族求核置換反応は特定の条件でしか起こらないため、ベンゼンに直接アミノ基を導入する手法は限定的です(ベンザインを経由するなど)。

続いて、もう一方の基質である2,5-ジクロロ-3-ニトロアゾベンゼンの合成を考えます。

アゾ基は亜硝酸ナトリウムと硫酸を用いることで導入できます。ケムステに詳細が記載されているので参考にしてください。

ジアゾカップリング diazocoupling | Chem-Station (ケムステ)

問題は次のアミノ基とクロロ基、ニトロ基が混在した芳香環をどのようにして作り上げていくかという点です。

ここでは各官能基の配向性に着目します。

アミノ基とクロロ基はオルト、パラ配向性を示し、ニトロ基はメタ配向性を示します。クロロ基とニトロ基の位置関係はメタ位のそれであるため、ニトロ基導入後にクロロ基を導入することが予想できます。

ではアミノ基はどのタイミングで導入しましょう。

導入する順序として

①アミノ基→ニトロ基→クロロ基

②ニトロ基→アミノ基→クロロ基

③ニトロ基→クロロ基→アミノ基

の3パターンが考えられます。

①ではアミノ基のオルト、パラ配向性によってニトロ基を所望の位置に導入することが可能です。

しかし②ではニトロ基のメタ配向性によってアミノ基を所望の位置に導入できず、③においてもクロロ基のオルト、パラ配向性によって狙った位置に選択的にアミノ基を導入することが困難であることが予想されます。

ということで①の順序での導入を検討することにします。

あれ。青枠で示した部分は何のために行っているの。と思われるかもしれません。

アニリンを直接ニトロ化するのではなく、無水酢酸を用いてアミノ基をアセチル保護しています。

アニリンは塩基であるため、そのままニトロ化しようとすると、硫酸によってアミノ基がアンモニウム塩となってしまい、これはメタ配向性を示すため、所望の位置にニトロ基を導入できなくなります。(アニリンが混酸による酸化を受け分解してしまうことも考えられる)

こういった理由から一度、アセチル化しニトロ化を行っています。

さて、逆合成解析が終わりました。

まとめると以下の通りです。

長ったらしい反応経路が出来上がりましたが、一つ一つの反応は基礎的なものであるため、確実に解けるようにしておきたい問題です。

残りの3つも解いていきます。

クロロ基とヨード基が混在する化合物の逆合成

ここからは解答をすぐ下に載せるので、ぜひ記事上のリンクから東北大学のHPにとんで、過去問を解いてみてください。

ヨード基とクロロ基はどちらもオルトパラ配向性であるため、どちらから導入しても目的物は得られます。

では、どちらから導入しましょう。。。

鍵となるのはヨード基の導入です。ヨード基はザンドマイヤー反応を用いてジアゾベンゼンとヨウ化カリウムを反応させることで導入することができます。

ここで冒頭の問題でも出てきたように、ジアゾベンゼンがアニリンから調整される点に着目します

アミノ基は芳香環の電子密度を上げるため、このタイミングでのクロロ基の導入がベストであると考えられます。

一番初めにクロロ基を導入するとクロロ基に誘基効果によってベンゼンが不活性化されることで、ニトロ化の収率が低下します。

また、ヨード基導入後も同様に、わずかながらベンゼンが不活性化されるため、収率が低くなることが予想されます。

以上の点をふまえると、アニリンにクロロ基を導入することが最良であると考えられます。

ザンドマイヤー反応についてもケムステに掲載されているため、ぜひ見てみてください。

ザンドマイヤー反応 Sandmeyer Reaction | Chem-Station (ケムステ)

カルボン酸の逆合成

さて、次の問題へ移りましょう。

解答としてはトルエンを出発物質をとして、パラ位のブロモ化からグリニャール試薬を調整し、二酸化炭素と反応させることでカルボン酸へと変換を行います。

比較的解きやすい問題であると思いますが、カルボン酸を得る方法として、トルエンを過マンガン酸カリウムで酸化する方法しか知らない場合は苦戦するかもしれません。

カルボニル化合物の選択的な逆合成

最後の問題です。

ベンゼン、トルエンを用いる場合でも、上に示された試薬では芳香環に何かしらつけないと反応させることができないため、まずはフリーデルクラフツアシル化によってアセチル基を芳香環に導入します

問題は次です。問題で与えられた試薬は残り2つありどちらからでも目的物が得られそうです。

上の反応はレフォルマトスキー反応と呼ばれ、α-ブロモエステルと亜鉛によりエノラートが形成し、それがアセトフェノンと反応し目的物が得られます。重要な点は、アセトフェノンと亜鉛からはエノラートを形成しないため、副反応が起きないことです。

一方で、LDAを用いた下の反応では以下のような副反応が起こることが予想されます。

レフォルマトスキー反応についてもケムステに掲載されているため、ぜひ一度見てみてください。

レフォルマトスキー反応 Reformatsky Reaction | Chem-Station (ケムステ)

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