必見!熱力学支配と速度論支配の反応の違い

記事の内容

  • 化学反応の仕組み
  • 熱力学支配、速度論支配
  • 反応温度が与える熱力学支配、速度論支配への影響

化学反応の仕組み

反応はどのように起こるか

本題に入る前に化学反応をエネルギー状態から確認していきましょう。

例えばAに熱を加えるとBへと変化する反応があるとしましょう。その際のエネルギー変化は以下のようになります。

ポイントはAからBへいきなり変化するのではなく、B*という高いエネルギーを持つ遷移状態を経てBへと変化する点です。

この過程がないとこの世の中にある多種多様な物質はすべてエネルギー的に安定な物質へと変化してしまいます。

B*はいわばAをAの状態にとどめておくための壁みたいなものです。

ここでΔEは反応によって異なることに留意してください。つまり、ΔEが大きすぎて高熱を与えないとその壁を乗り越えられない反応だけでなく、ΔEが小さくて室温程度の熱エネルギーでも壁を越えてしまうような反応もあるということです。

AがBとCの二種類に変化する場合

化学反応はAがBに変化するだけではありません。むしろAがBやCのような二種類へと変化する、もっと言えば三種類、四種類へと変化する反応のほうが多く存在します。

さて、ここでは新たに二種類へと変化する場合のエネルギー変化を見ていくことにしましょう。

AがBとCへと変化する際のエネルギー変化が上のようだとします。

この場合、ΔEの小さいC*のほうが小さいエネルギーで反応するためCが選択的に得られます。もちろんB*を超えられるほどのエネルギーを加えてあげれば、Bも得られます。

では、以下の場合はどうでしょう。

この場合もΔEがCのほうが小さいため、Cが選択的に得られるのでしょうか。

答えは必ずしもそうとは限らないということです。

なぜならば、生成物であるBがCよりも安定だからです。

このような条件ではΔEだけで主生成物を判断することができません。

そこでようやく熱力学支配と速度論支配の出番です。

熱力学支配、速度論支配とは

結論から言うと、反応が速度論支配で進行する場合、Cが選択的に得られ、熱力学支配で進行する場合Bが選択的に得られます。

ではなせ速度論支配の場合、Cが選択的に得られるのでしょうか。答えは簡単です。

これまでの説明通り、ΔEが小さいからです。B,Cに変化するためにはB*,C*を経由しなければなりませんでしたよね。

つまり遷移状態のエネルギーが低いC*への変化のほうが起こりやすく、結果としてCが得られるということです。

ではなぜ熱力学支配の場合、Bが得られるのでしょうか。

それは熱力学支配の場合、BからA,CからAへの逆反応が起こるという条件が付いているからです。

反応系の中にA,B,Cが共存していて、それらが行ったり来たりしていたら、最終的に最も安定なものに行き着きます。

それがBなわけです。対称的に速度論支配は逆反応が起こらないという条件があるので、B,Cの安定性ではなく、B*,C*の安定性によって反応経路が決まるというわけです。

ちなみに逆反応はB,CからAに戻る際のΔE*が小さいと起こります。これに着目すると温度を変えることによって反応の選択性を変えることが可能になります。

反応温度が与える速度論支配、熱力学支配への影響

再度AからB,Cの二種類を与える反応におけるエネルギー変化を確認しましょう。

速度論支配の場合、ΔEが小さいC*への変化のほうが起こりやすく結果としてCが得られるのでした。

しかし、単に速度論支配というだけではどうすればCが選択的に得られるのかわかりません。

そこで検討するのが温度です。冒頭にも述べましたが、反応はΔEを超えるエネルギーがないと進行しません。

つまり、低温条件にすればB*への変化が起こらなくなります。これが速度論支配における反応になります。

対称的に、熱力学支配はB,CからAへの逆反応が起こる反応、すなわちBからB*へのΔE*をこえるエネルギーが与えられる場合の反応でした。

BからB*へのΔE*をこえるには高いエネルギー、つまり高温条件が必要となります。

まとめると

  • 低温条件では速度論支配が優先して起こる
  • 高温条件では熱力学支配が優先して起こる

ではその具体例を見ていきましょう。

速度論支配、熱力学支配の反応例

どの教科書にも載っている1,3-ブタジエンのHBr付加反応を見ていきます。

この反応は上で示したように二種類の生成物へと変化します。(本当はもう一種類できますが、テーマの趣旨からそれるため割愛)

以下にこの反応のエネルギー変化を示します。

1,3-ブタジエンにプロトンが付加してできる2つのカルボカチオン(A`)は共鳴構造体であるため、エネルギー的に等価です。しかしながらこれら2つは二級アリルカチオンと一級アリルカチオンであるため、遷移状態における安定性は二級アリルカチオンが優位となります。

そのため図に示したように二級アリルカチオンにBrが付加したCが生成する遷移状態C*のほうがB*よりも安定になります。すなわち速度論支配である低温条件ではCの生成が優先します。

一方、一級アリルカチオンを経由するBにおいては生成物であるBがザイツェフ則によりCよりも安定化するため、熱力学支配である高温条件ではBの生成が優先します。

このように遷移状態、生成物の安定性を考慮することで、生成物を作り分けることが可能となるわけです。

ちなみに速度論支配、熱力学支配を利用した問題は大学院入試で頻出します。

2019 東京大学 工学研究科 基礎有機化学Ⅲ 2

参考図書

反応速度論という分野は数式が多くなかなかとっつきにくい印象があります。

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