大学院で有機化学について研究しているpigです。みなさん有機化学についてどういった印象を持っていますか。
私は高校時代に薬について興味があったので、どんな学問だろうとわくわくしながら勉強した記憶があります。(笑)
話は変わりますが、新しいことを勉強する際に大事なことは何だと思いますか。
持論ですがこれは学んだことの一つ一つを関連付ける作業をすることだと思います。私は理系なので高校時代歴史関連の教科は履修していませんが、この方法は歴史を暗記する常套手段でしょう。
有機化学はこの方法を用いて学ぶことで格段に暗記効率が上がります。
ということで一つ一つの事象を関連付けながらさらっと重要な項目をさらっていこうと思います。
記事の内容
- アルカン(とその性質)
- アルケン(とその性質)
- アルケンのハロゲン付加反応
- アルケンからアルコールの合成
- アルケンからアルデヒド、ケトンの合成
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アルカン(とその性質)
アルカンとはC-H結合のみで構成される有機化合物です。
まずはアルカンの中でも最小の有機分子としてメタンを覚えましょう。

炭素は4つの結合手をもつので4つの水素と結合しています。メタンガスは聞いたことあるかと思います。その名の通り、メタンは気体です。ということでここから関連付けていきます。

炭素数を一つずつ増やしました。先ほどにも述べた通り炭素は4つの結合手をもつので上の図のような分子になります。ここで重要な点が二つあります。
- 分子状態(沸点、融点)
- 反応性
分子状態
メタンからエタン、プロパン、、、オクタンへと炭素が増えると分子の沸点はどう変化すると思いますか。
答えは上がります。なぜならファンデルワールス力が働くからです。分子が大きくなると、分子同士の相互作用が大きくなり、液体から気体になるために必要なエネルギーが大きくなります。メタンの沸点は-162℃、つまり常温では気体です。これがペンタンになると沸点が36℃まで上がり、常温で液体になります。ちなみに炭素数が17になると融点が常温よりも高くなり、固体になります。
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反応性
化学反応はなぜ起こるかご存じですか。
それは原子と原子の結合エネルギーよりも高いエネルギーを与えた際に起こります。つまり、原子と原子の結合エネルギーが大きい場合、反応は起こりません。
上に示したアルカンと呼ばれる分子はC-C結合とC-H結合から成っておりどちらも結合エネルギーが高いため、光のような高エネルギーを与えない限り反応はしません。
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アルケン(とその特性)
先ほど紹介したアルカンはC-C結合でしたが、アルケンはC=C結合を有するものを指します。
まずは最も簡単なエタンのC-C-結合を二重結合にしたエチレンを覚えましょう。

先ほどアルカンの一種であるエタンは反応性が低いと述べましたが、エチレンはどうでしょう。
二重結合のうちの一つの結合は結合エネルギーが低く切断されやすいです。つまり、他の反応剤を添加することで反応します。
代表的な反応例を以下にまとめます。

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ハロゲン化物の付加反応
二重結合は切れやすく、ここにBr2やHBrなどのハロゲン化物を添加すると上図のような反応を起こします。余談ですが、有機化学は炭素をメインに取り扱う学問ですが、ハロゲンや酸素、窒素を適宜組み込むことで、炭素だけではなしえない機能性を発現させることが魅力の一つです。この反応により有機化合物をデザインする術を一つ学ぶことができました。
とはいっても高校化学の範囲ではこんな話はどうでもいいので、実用的な話をしましょう。
教科書に書いてあると思いますが、Br2とエチレンの反応は反応前後で色が変化することから二重結合の検出に使用されます。
文章問題でこの手の記述が出てきたら、化合物内に二重結合があるんだなと予想して回答することができます。
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アルケンからアルコールの合成
エチレンに水と硫酸のような酸を添加するとエタノールが得られます。

そもそもアルコールとは上図のようなアルカンにOHが結合した有機化合物のことを指します。その特徴はなんといっても水に溶けやすいこと。

アルコールのOHと水は上図のように水素結合を形成し、混和します。これが水とまじわる原理です。
有機化合物を用いた材料開発なんかで水溶性を調節するときに大活躍します。
もう一つの特徴として対応するアルカンに比べて沸点が高くなります。

それは上図のように分子同士で水素結合を形成するためです。
そのためメタンとメタノールではメタノールのほうが沸点が高く、メタノールは常温で液体として存在します。おさらいですが、アルコールも分子量が増えるにつれて沸点は高くなります(ファンデルワールス力)。
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アルケンからアルデヒド、ケトンの合成
アルデヒドはエチレンからヘキストワッカー法によって合成されます。
アルデヒドはC=O結合を有する有機化学の中でも最重要な構造を持っております。この構造を持つ化合物を総じてカルボニル化合物と呼び、その内でケトンも重要です。

アルデヒドとケトンの違いはHが結合しているか、Cが結合しているかの違いのみです。
カルボニル化合物の特徴として
- 水への溶解性
- 還元作用(アルデヒドのみ)
酸化還元を覚えていますか。アルデヒドは酸素が結合していることから酸化されています。すなわち、アルデヒドは他の物質を還元する働きを示します。
代表的なものとしてフェーリング反応、銀鏡反応があります。
フェーリング反応はCu2+がアルデヒドによって還元されCu+となる反応、銀鏡反応は[Ag(NH3)2]+がAgに還元され銀が析出する反応です。どちらも視覚的にアルデヒドの存在をとらえることができるため有用な手法です。
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まとめ
メタンからアルカン、アルケンへつなぎ、アルケンの反応性の高さを生かしてハロゲンの付加、アルコールの合成、アルデヒド、ケトンの合成について説明しました。加えてそれぞれの特性を分子構造に着目して説明しました。
単なる暗記ではなかなか有機化学を網羅するのは厳しいと思います。記事の内容のように有機化合物の分類とそのつながり、そして分子構造に由来した特性を理解して覚えると忘れにくく、思い出しやすくなると思います。